「上勝日記」
by笹尾圭哉子

 上勝は今回も「自然」と「おいしいもの」と「上勝を愛する心」に溢れていました。同行した母も、思い出しては「上勝の山はすごかったね」とか「上勝のお水はおいしかったね」と何度も申しております。昨年の9月に一度花岡さんを訪ねていますが、そのときよりはるかにたくさんの自然を満喫することができました。なぜって、イモリやイノシシや巨大ミミズや貝の化石にまで遭遇することができたのですから。そしてもちろんホタルにも。

 上勝に近づくにつれて木立が重なりあい、谷が深くなります。沿道にはたまご色の実をつけたビワや白い花の咲くスダチが見え、初夏の林には白くて小さなヒメウツギがあちらこちらに咲いていました。まずはお宿に荷物を置き、最初に花岡さんの事務所に立ち寄りました。旧福原小学校を改築したもので、2階は一般のアパートになっています。ツバメが1画ごとに巣を作っていました。久々に見たツバメでしたし、上勝で遭遇した生き物第1号でした。

 樫原の棚田ではまだ田植えの最中でした。昨年の稲穂の風にそよぐ様子を思い出していると急に犬が吠えだしました。HさんとIさんが声のする方から走ってきました。犬が吠え出した原因はお二人?自然は人を子供に戻すのかもしれません。犬はイノシシを狩るときの犬だそうで、眼下に囚われの身のイノシシが檻の中にいました。遭遇生き物第2号です。そう言えばガードレールには干したイノシシの革がありました。そうとも知らずイノシシ君は、デジカメを向けた私に後ろ足を伸ばしてポーズを決めてくれたのでした。

そして、棚田の奥の細長い水たまりにはたくさんのイモリが泳いでいました。遭遇生き物第3号です。発見者はまたしてもIさん。Iさんは「ヤッホー体験」の途中で立ち寄った一休茶屋でも「カブトムシの幼虫」を見つけて小学生の男の子のように嬉しそうでした。意外な一面を見ることができるのも旅の楽しみですね。ともあれ、はじめてのイモリには感激しました。

次にゴミステーションとリサイクルショップを見学しました。もともとゴミの広域処理ができなかったことから運動が始まったそうですが、それが続いているのは上勝のみなさんが町を愛しているからでしょう。「雄渕」、「雌渕」でも小雨の降る中、滝を眺めて和んでいる方たちがいらっしゃいました。ホタル祭りの準備の合間だったのでしょうか。みなさんで故郷を愛して盛りたてている様子が感じられました。

夜も生憎の雨でしたが、ホタル祭りが開催され、テントの中は縁日のようでした。夕食は町の方の手作りのお弁当で、草餅のデザートや焼き鳥、おそばもついて、おなかははちきれんばかりでした。お弁当には上勝名産の「彩り」がきれいに添えられていました。夕食後、オカリナの素敵な演奏やホタルクイズの後で、いよいよ川面にホタル観賞に行きました。暗闇に目が慣れてくると対岸のあちらこちらで宙にポーっと、それが水面にも映ってポーっと、こちらの岸にも、誰かの腕にもポワンと光っていました。ホタルの光がきれいなのは、余計な光がないからでしょう。帰り道は足元に点々と続く竹蝋燭のやさしい明かりと、耳に残るオカリナの「千の風になって」に送られて帰りました。

2日目は最初に「ヤッホー」と「ホラ貝」を体験しました。正木ダム周辺にはいくつものヤッホーポイントがあります。山彦認定士の武市さんはとても指導が上手です。声をあわせて「ヤホッ」と短く叫ぶと、なぜか数倍も美しい響きとなって、長く尾を引いて山彦が帰ってきます。耳を澄ますと川のせせらぎと雨音と鳥のさえずりと風の音、そして山彦の余韻が残ります。聞き方専門の母が「山彦がとても素敵だった」と言っていました。ちなみに会社の女子に「エアヤッホー」のやり方などを披露したところ、とっても受けました。そしてホラ貝も「ポォ」とちょっとだけ音がでて嬉しかった一方で、うまく吹けないもどかしさがありました。腹筋が鍛えられて胃腸の弱い私にはちょうど鍛錬にもなりそうなので、自分で購入して練習する予定です。いつのまにか夢中で遊んだひとときでした。

そうそう、ヤッホーの途中で巨大ミミズに遭遇しました。ホタルが遭遇生き物の第4号ですので、ミミズは第5号です。上勝の豊かでおっとりした自然に育まれて成長したのでしょう。あまり想像したくないかもしれませんが、雨でぬれた草の上に蛇かと思うほど長く太くもじもじと横たわっていました。そして遭遇生き物第6号が貝の化石でした。道路建設中に岩の片側に偶然見つかったそうです。とても古い二枚貝だとのことでした。上勝がかつては海だったことの証です。太古の海が隆起してここまで高い山になるなんて、不思議な思いでした。

雨が思い出したようにぱらつく中、一旦お昼を食べにお宿に戻りました。野菜や魚中心の豪華な食事でおいしかったです。朝食もほお葉味噌の乗ったお豆腐など、好みの食材ばかりでした。そしてどの食事にも「彩り」がふんだんに使われていました。小さなアジサイの花はブローチにしたいくらいかわいらしかったです。お昼のあとにその「彩り」を出荷している美馬さんにいろいろお話を伺いました。葉っぱ125円に一同びっくり。葉っぱを見る目つきが心なしか変わっていました。いかに鮮度を保つは企業秘密だそうですが、町内では上勝ブランドを守るため、みなさんで知恵を出し合って高めあっているそうです。すばらしいことですよね。

花岡さんにお世話いただいた楽しい上勝ツアーも最後となりました。お宿の方にも大変親切にしていただき、名残惜しかったのですが、まぼろしの柑橘類「ゆこう」のお酢など、おみやげを買ってお別れしました。先日「ゆこう」で混ぜご飯を作っていただきましたが、柑橘系の香りが家中に漂って、母と二人、またまた上勝の思い出に浸りました。

イモリ