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2006年07月26日
失敗学
7月25日、大崎で企業内技術士交流会の第51回定例会があり、講演を聴いてきました。
テーマは「失敗学」です。
これまでウヤムヤに葬り去られてきた「上流の失敗」、つまり企画・開発段階での「失敗」に注目した内容の講演でした。中尾氏による上流の失敗の特徴を簡単にまとめてみます。
・顧客の要求機能を明確にせずにフライング・スタートを切っている。
・世の中は自在に素早く変化するが、それに追随できないために起こる。
・隠蔽されやすいし、類災も再発している。
・組織的・人間的・文化的な原因によるとされて分析されない。
・さらなる厳重管理、反省、意識高揚などで解決しようとしている。
・エライ人ほど犯しやすい。
失敗をなくすことはできないという事実を認め、単に失敗という現象にとどめず、収集・分析・記録することにより、知識として次の開発・設計に活用することを目指すべきというのが結論でした。
失敗学は「人のふり見て我がふり直せ」に尽きる、とのこと。一見、全く違うように見える失敗の事例でも、実は「よく似ている」、そのことに気が付くかどうかが、失敗から学ぶ能力があるかどうかの分かれ目なのだそうです。
「失敗知識データベース」(http://shippai.jst.go.jp/fkd/Search)はそのために作られたデータベースで、1,135の失敗事例が登録されていました。残念ながら、最近の日本ではこのようなデータベースに頼らなくても、新しい「失敗事例」に事欠きませんよね。ちなみに、2006年6月の検索ランキング第1位は、「三菱自動車のリコール隠し」でした。
そういえば、8月5日(土)に総合技術監理部門の二次試験がありますが、事例研究の資料として、このデータベースは参考になりそうですよ。検索法がたくさんあり、右図は具体的要素で検索する「失敗まんだら」の一例です。(http://shippai.jst.go.jp/fkd/Contents?fn=1&id=GE0704#3)
クリックすると大きく見やすくなります。
ご参考に、交流会の会費は1,000円、CPDは3単位です。
大崎駅東側も再開発が進んでいるようです。
投稿者 MCAT : 2006年07月26日 23:54
コメント
いつも、きれいで素敵なブログで、次回が楽しみです。
10年以上前に、飲み会で聞いた話しなので、間違っているかもしれません。
長年開発してこられた方が、
今までの失敗した事例を、後から見てみると、
最初の段階で、何のために作るのかという目的が明確になっていなかったとおっしゃっていました。
一言で言えるような、要求仕様があり、開発メンバーにそれが伝わってないといけないとおっしゃっていられたように思います。
投稿者 一口カステラ : 2006年07月27日 21:35
一口カステラ さん
その通りですよぉ!!!
先日の講演者の方が、何度も何度も強調されていたのは、まさにその点です。
「最初の段階で、何のために作るのかという目的が明確になっていなかった」
これこそ「上流の失敗」の原因の一番だそうです。
その10年以上前の飲み会って、もしかして今日の「失敗学会」の前身だったのでは?
投稿者 MCAT : 2006年07月28日 00:41
失敗がキチンと「失敗学」という学問として、位置づけられているのに驚きました。倫理にも通じます。なるほど、なるほどとうなずけることばかりです。上流の視点からも、最後の「エライ人ほど犯しやすい」には、「実るほど頭をたれる稲穂かな」で事を成すにあたって、常に最新の考えを吸収し、若い人達の考えも謙虚に取り入れ、頭をリセットしておく必要がありますね。また、特に計画に携わる人間として、ためになります。
投稿者 チョコ : 2006年07月28日 11:14
MCATさん、いい講演会に行かれましたね。また、資料を公開してくださって、ありがとうございます。
最近問題になっているシンドラー社やパロマの事件は「組織に起因する原因」だということが明らかですね。しかし「個人に起因する原因」も組織に起因して引き起こされることが多い気がしますし、個人のミスを防ぐような組織(システム)が求められるということでしょう。
投稿者 authenticity : 2006年07月29日 11:02
一口カステラさんのコメントへ
「今までの失敗した事例を、後から見てみると、最初の段階で、何のために作るのかという目的が明確になっていなかった」
これは、情報システムでも建築プロジェクトでもひいては国の施策にもいえることなのではないでしょうか!
投稿者 authenticity : 2006年07月29日 11:07
失敗学…
主旨は違いますが、
以前、アメリカ軍が軍事医療に関するミスの調査を行いました。
「咎めることはしないから、小さなことも全て出せ」という調査です。
出てきたのは大小数千だったと思います。
その後、方針通り咎めや処分は一切せず、全てを対処マニュアルに組み込んだところ、ミスは激減したといいます。
通常、ミスに対しては咎めるという傾向にあるため、隠したり過小報告したりという事態が発生し、結果的にミス辞退が減ることは無い、ということになります。
米軍信奉者ではありませんが、彼らの行っている実験や調査には注目すべきものが多いのも事実です。
投稿者 dewey : 2006年07月29日 12:22
authenticityさま
講演者の方が、「上流の失敗」の原因の一番とおっしゃられたそうですが、その方も、ほとんどがその原因で、大きな失敗になるのもそれとおっしゃっておられたように思います。
投稿者 一口カステラ : 2006年07月30日 01:02
dewey さん
プラグマティズムのアメリカらしいお話ですよね。
ディズニーランドやマクドナルドを例に出さなくても、アメリカ人にはマニュアル作りに卓越したものがあるのは明らかなようです。もちろん「阿吽の呼吸」なんて通用しない社会での、必要性から生まれたものだとは思いますが。
失敗に対する日米のとらえ方は大きく違うようです。
ロケットの失敗を例にとっても、日本ではまだまだ未知の分野であるのに、H-2ロケット8号機の墜落の時「日本の技術もここまでか!」なんてマスコミに叩かれたりしました。アメリカでは、チャレンジャーの打上げ失敗は、後の技術開発につながる大変有意義なものだと認識されているようです。
失敗学の大家、畑村教授は、日本は、古くは中国、近年は欧米の真似をすることで発展してきたので、失敗しながら創意工夫する能力より、確実に正解を探す能力の高さを評価する傾向があるとおっしゃっていました。日本人が失敗を恐れ、マイナスに捉えがちなのは、そうした背景によるようです。
投稿者 MCAT : 2006年07月30日 01:16