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2007年01月27日

せんだいメディアテーク

ケヤキ並木で有名な定禅寺通りに面した,複合文化公共施設です。
「メディアテーク」とはフランス語で「メディアを収める棚」を意味しているそうで,ここでは,書籍,ビデオ,DVD,CD,CD-ROMなどの映像や音楽を集めて市民に提供すると同時に,市民参加型の各種のイベントを開催しています。

メディア外観.jpg

もともとは,べつの場所にあった仙台市民図書館が老朽化したためその代替施設を造る予定だったのですが,せっかくなので単なる図書館ではなくギャラリーも併設し,さらに時代の要請に応えて,映像や音楽などのあらゆるメディアの収蔵・閲覧・鑑賞を可能とする施設にすることにしたのがメディアテーク建設の経緯で,2000年に完成しています。

写真でわかるように,この建物は通りに面した部分の壁がガラス張りで人目を引くのですが,それだけでなく建築物として評価が高いそうです。私は建築のことはとんとわからないので,間違っていることがあったらごめんなさい。

まず,構造としては,建物全体がチューブと呼ばれる13本の鉄骨独立シャフト(主に鋼管トラス構造)と,7枚の鉄骨フラットスラブ(ハニカムスラブ:鋼鈑サンドイッチ構造)のみで構成されており,これは、「柱」によって建てられる旧来の日本家屋と建築思想が同じだそうです。このチューブは,屋上の採光装置で反射した太陽光を建物内部に取り入る役目のほか,ネットワークや空調などの設備配管や配線,エレベーターや階段など垂直動線を通すパイプとしても利用されているそうです。

メディアチューブ.bmp

また,建物の78%を覆うガラスは,南側を二重にすることと建物上部に開閉機構を設けることで,夏期は機構を開放して内側に上昇気流を起こしてガラス面を冷却し,冬季は閉めて断熱性の高い空気層を作り出して空調コストを低減させているそうです。このように,壁ほとんどガラス張りであるため,支柱のスケルトン構造を外から直接見ることができると同時に,建物の中からも定禅寺通りのケヤキ並木を見渡すことができ,中と外との一体感があるそうです。

確かに,毎秋に開催される定禅寺ストリートジャズフェスティバルの時には1階の通りに面したガラスが全て開かれてイベントが行われていますし,毎冬のSENDAI光のページェントの時にも関連したイベントが行われています。それに,光のページェントをこの建物の上から眺めるのはとても美しい。

メディア2層ガラス横.JPG

この構造形式は,現代のコンクリートビルディングの構造である「柱・梁からなる構造+補助的に柱梁間に挟まれた構造壁=ラーメン構造=近代建築」とは異なり,柱をたくさんの細い鉄柱に分解し,擬似的に曲面構造を構成することで「すけすけの柱の内部=チューブ」を作り出した「柱の概念を解体する」挑戦だそうです。世界中で全ての著名な建築家は近代建築に対する批判的思考を経て新しいものを生み出しているそうですが,その中でも近年ではこのせんだいメディアテークの建物は圧倒的であり,世界(特にヨーロッパ)の建築界に衝撃を与えたそうです。話が専門外のため,すべてが「そうです」になっているところが情けないのですがご容赦ください。

さて,それで,このメディアテークの本当の評判はどうなのでしょうか。
以前(12/12),authenticityさんから「せんだいメディアテークは、他にはないような新しい建物で、高く評価されて」いるし,「利用者の一般市民の方々も、明るくて気持ちがいい、時々立ち寄るようになったとか絶賛という感じだったのですが、本当のところはどうなのか街の評判を聞いてみたい」というコメントをいただいたので,私もずっと気になっていました。それで,近所の友人に尋ねたり,メディアテークに来ている人たちの会話を盗み聞きしたり,ネットで関連したブログを読んでみたりしました。

岡本太郎写真展.jpg

肯定的な意見としては,「イベントによっては開館前に到着しても,もう行列ができている」「七夕やジャズフェスティバルや光のページェントなど,季節ごとのイベントと連携している」「デートスポットになっている」などで,それなりに市民に開かれて活用されているという評価。

逆に,否定的な意見の代表格は,「ここで行われているイベントや発表会などが,本当にここでなければダメといった感じはない。別の場所のギャラリーでも同じではないか」というもの。私も,どちらかと言うと後者に近い意見です。確かに私も見に行った岡本太郎の写真展は良かったのですが,それは作品の持つ力であって,どうしてもここでやらねば魅力が引き出せないというわけではなかったように思います。

でも,それを言ったら,本当にこの入れ物でなければジャストフィットしない中身というものは,ここに限らずあるのでしょうか。それに,できてしまっているものは使わなければもったいない(建設費は地下2階地上7階で130億円)。結局は,いろいろなことをしていくうちに人(地域)に密着していくのではないかというのが私の結論です。実際,今月の月例上映会では『1978年宮城県沖地震の記憶』を上映しています。こういうフィルムは,通常であれば学校や社会教育団体にしか貸し出せないそうなので,こういう機会に見ることができるのは有難いことではあります。また,仙台のアート関連の発信地として集客力も少しずつ発揮しているようで,周囲にアート関連の店や民間企業が集まりだしてもいるそうです。

写真集.jpg

というわけで,私が勝手に考える今後の課題としては,メディアテークのような(たぶん)質の良い空間を活かすイベントや企画を考えることではないかと思います。良質の多様な企画(曖昧ですみません。このあたり私の苦手領域)によってさまざまな人を呼び込むことで,人と人との接点を作る場となることができるのではないでしょうか。それが,次のステップにつながっていくように思えます。なんか思考停止型のニュースキャスターのコメントのようで自分でも恥ずかしい感じです。ごめんなさい。

それから,「冬場、雪の中ではどんな風景になるのでしょう。」は,残念ながら今年の記録的な暖冬のためお見せすることが叶いませんでした。こちらもごめんなさい。
建築に興味のある方は,メディアテークの写真集が出ていますので,ご覧になってはいかがでしょうか。建築学会作品賞やグッドデザイン賞など数々の賞を受賞している,建築物としては本当に画期的な建物だそうです。

投稿者 watanabe : 2007年01月27日 16:00

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コメント

せんだいメディアテークは、たしかに建築業界でも話題の建物ですよ~。伊東豊雄さんという超有名建築家の作品で、ご本人の事務所のHPでも代表作3作の中のひとつとして紹介されています。このプロジェクトの特徴は「新しいプログラムを備えた建築の提案」とのこと。ひよこキャスターが記事でじっくりわかりやすく紹介してくれました、いろいろな新しい取組みのことのようです。
この施設は、もともと「棚」なわけですから、中に入れる「もの」の方が主役であり、よいものを上手く展示・収納できることが棚の本望なのだろうとは思います。が、ひよこさんのおっしゃるように、今後、空間(棚)を活かすイベントや企画を考える、という方向性も大事だと思います。

投稿者 MCAT : 2007年01月28日 02:05

MCATさん,さすがに建築家の名前をご存知ですね。私はどうも建築の意匠屋さんは苦手領域で,この方も初めて知りました。

5年ほど前,渋谷駅近くに新しい歩道橋を架けようという仕事の時の話。施主の希望は「渋谷に入る直前にある歩道橋だから,渋谷の顔になるようなものを造りたい」。これに対して私たちゼネコンが第一次案の設計を持ってゆくと,そこに同席している意匠屋の先生(なぜか建築の意匠屋さんは施主から先生と呼ばれる)が「ここはもっとこう,なだらかなこんな感じがいいんじゃない」と,設計図に手書きで適当な(としか見えない)曲線を入れます。施主「じゃ,それで設計しなおしてきて」。簡単に書いて簡単に言うけど,そのための設計計算は全部やり直しなんですよ,しかもそんな変な(複雑な)曲線。こうして,意匠屋さんとの溝はどんどん深まっていくのでした。

閑話休題。「棚」の活用法,確かにそうですね。「展示・収納」がきちんと出来ていれば良いわけですよね。ただ,それで130億円は,土木屋の感覚からするとやっぱり高いなあ。

投稿者 ひよこ : 2007年01月28日 10:52

watanabeさん、詳細レポートありがとうございました。やはり、室内からの写真は想像以上の迫力です。あの不規則に斜めったチューブが構造体とは、中にいたら不思議な感覚でしょうね。ますます現地に行ってみたくなりました。
watanabeさんの書かれているように、空間を活かすイベントを造るというか、この建物にはそのようなパワーがあるのではないでしょうか? 建物自体が広告塔でもあるし、存在だけでも、とても刺激的で魅力的に感じます。
東北にアートの発信地があるなんて、すばらしいです。

投稿者 authenticity : 2007年01月28日 21:46

authenticityさん,至らぬレポートで本来の魅力が失われていなければ良いのですが。実は,今まで何度か現地に行っていますが,あのチューブが構造体とは全然知りませんでした。「何か前衛的なことやってるなあ」くらいの印象だったんです。「存在だけでも、とても刺激的で魅力的に感じ」るという見る目のある人が見ないと,せっかくの傑作も生きませんね。

仙台は,最近「楽都」として売り出そうとしているらしく,毎年決まった時期に,ジャズフェスティバル,クラシックコンサート,ゴスペルフェスティバル,よさこい祭り,すずめ踊り(青葉祭り)など,音楽(+踊り)を主体にしたイベントを開催しています。全国的に知れ渡るにはまだまだ長い時間がかかりそうですが,東北時間が流れるここでは気長に続けられていくようです。いつか,音楽を含むアートの発信地として定着することを楽しみにしています。その時はメディアテークは,地理的な有利性から言っても本来の機能から言っても,その中心地になるでしょうね。

投稿者 ひよこ : 2007年01月29日 19:42

柱の建築物ですが。なるほどです。はじめに柱を建てるんでしょうかね。ところで、五重塔などの長い親柱を昔の人はどうやって建てたのか、NHKの「ようこそ先輩」でやってました。
ハニカムというのもキーワードですよね。以前見学した帝釈天近くのお役所の免震構造物がハニカムでした。

ひよこさんの説明でメディアテークの見かけだけじゃない魅力を知ることができました。一度見に行きたいし、ひよこさんのおかげで仙台の良いところ、他にもたくさん知ることができました。

投稿者 shiratori : 2007年02月02日 18:44

白鳥さん,「柱の建築物」だそうです。たぶん,ご推察のとおり始めに柱を立てるんでしょうね。私は建築が全くもってさっぱりなので,メディアテークの魅力は本当はもっと深いのだと思いますよ。ぜひ,現物を見にいらしてくださいな。

投稿者 ひよこ : 2007年02月02日 20:29