- 講演題目:第15回通常総会・講演会「木材産業の6次化と木材セキュリティーの実現」
ファシリテーター:林 栄津子(技術士 森林部門_林業) - 日 時:2022年5月28日(土)15:00~16:30(話題提供)
- 活動形態:基調講演・オンラインディスカッション/参加者:26名
概 要:
- 浅野美代子大東文化大学名誉教授による、木材産業の6次化に向けた取組についての基調講演:
ICタグを用いた木材トレーサビリティの実証実験の紹介、木材産業の現状と関連する法律の解説をいただきました。 - 1のICタグやクラウドシステムの質疑応答、活用の展望について意見を交換し、また、令和6年より課税される森林環境譲与税の紹介及び山林(土地)所有に関連した問題点等を共有しました。
- 感想:
今回、浅野先生の講演の後の意見交換のファシリテーターのお話をいただいた際、嬉しい反面、木材産業が若干身近に感じにくいテーマであったため、昨年度の総会後のシンポジウム(プラスチックごみの減量)に比べて、質問や発言は少ないだろうと思っていました。しかし、そこは参加者の皆さんの知識水準や技術・情報への関心の高さから、予想以上の質問や意見をいただけて、大変救われました。今回のオンラインミーティングで、意見を引き出すための話の展開や、多くの参加者が発言しやすい質問の仕方を考える良い機会をいただきました。ありがとうございました。
補足:
新型コロナウィルス感染症や、ロシア・ウクライナ情勢の影響を受け、輸入木材の流通量が減り、木材価格が上昇していること(いわゆるウッドショック)に伴って、日本の森林や林業が脚光を浴びているように思われましたので、もう少し皆さんの身近に森林や林業・木材産業を感じていただくために、日本の林業の課題をいくつか挙げてみます。
日本の森林の課題について考える際、切り離せないのは日本の森林が急傾斜地にあることが挙げられます。急傾斜地では木材の搬出のための道を作りにくく、機械化が困難で作業コストを下げにくいです。また、急傾斜地での作業は危険を伴うので、死傷災害が全産業の中で突出して高く、労働安全と担い手対策が喫緊の課題です。
一方、世界的なウッドショックの到来により、木材を搬出する気運が高まっている中で、上記の課題に加えて個人の森林所有形態が小規模であることが挙げられます。収益の得られる木材の伐採搬出を行おうとすれば、数ha程度のまとまった伐採候補地を確保したいものの、森林組合や林業事業体は小規模山林所有者の承諾を得ることに苦労している現状があります。そこで今回浅野先生にお話しいただいた「森林経営管理法」が制定され、自身で管理できない森林所有者に代わり、市町村が管理を実施する森林経営管理制度により、令和6年から課税される森林環境税を活用して、全国の山林の手入れ不足の解消が図られるところです。
様々な対策の中で、今回の講演では、クラウドシステムによるトレーサビリティの研究成果をご紹介いただきましたが、例えば、木材が山林から土場に集積され、市場や製材所へ輸送され、値段が決定するまでの木材の仕分けに至る作業とコストの軽減に寄与する技術として活用がなされることが期待されます。
日本の林業を取り巻くキーワード
急傾斜地の林業現場作業風景
CLT(直行集成板)を活用した木造中高層建築(一般社団法人CLT協会パンフレットより)
- おわりに:
森林率67%の日本で木材自給率41%(令和2年)。二酸化炭素を吸収・固定した木材を使うことが地球温暖化を食い止める1つの手法と考えている自分は、この41%を60%に上げたいと考えています。
森林環境税は、森林経営管理制度のほかにも木材の利活用や間伐の推進など各市区町村で活用されますが、これを読んでいただいた皆さんには、お住いの市区町村でどんな使途で使われていくか関心を持っていただければ嬉しいです。
また、「地域木材を使用した内装のスターバックスコーヒーは居心地が良いわ」などとSNSで発信してもらうことも木材志向を後押しする1票となります。
「木質化された公共施設を増やしたい」と声を上げ、世の中を変えていこうと思う今日この頃です。