インドの女性の社会進出
浦郷昭子
2018年の国際連合開発計画の人間開発報告書によると、インドの人間開発指数(HDI:Human Development Index)は0.64で世界166か国中131位(中程度人間開発国のグループ)、ジェンダー開発指数(GDI: Gender-related Development Index)はウガンダやスーダンよりも低い0.82で世界166か国中153位(格差の最も大きいグループ5)。女性が十分に活躍しているとは言えない日本でも、HDIは0.91で19位(超高度人間開発国グループ)、GDIは0.98で51位(格差の最も少ないグループ1)なので、インドの女性の多くが能力を発揮するチャンスが少ないことがわかる。
インドの女性には、性差以前にカーストと宗教という大きな文化的壁が立ちふさがっている。カーストの低い人々は教育の機会さえ得られないこともあり、カーストによって職業選択の自由も制限されている。宗教とカーストによって女性の外出や単独行動、同席や会話まで制限されることもある。低カーストの女性は、能力を発揮するチャンスがとても低い。それでも近年少しずつ変わり始めている。
実際自分のかかわったダムの設計にかかわる電力会社の技術者は全員が男性、社会調査にかかわるコンサルタントに女性が1名であったが、日本人の現地踏査をガードする警察隊と森林局の職員の2割程度が女性だった。インド人女性の働く場は公務員を中心に増えつつある。UNDPによる公務員のジェンダー平等レポート(GENDER EQUALITY IN PUBLIC ADMINISTRATION(2021)[1]によると、リーダーに占める女性の割合はインドで12%、日本4%。女性公務員の割合はインド23%、日本20%と、インドのほうが日本よりも女性公務員が活躍しているのだ。
インドは、女性権利拡大国家政策(National Policy for the Empowerment of Women, 2001)[2]を制定し、ジェンダー平等を推進するための多くのスキーム(表1参照)を実行し、確実に女性の社会進出が進んでいる。
表1 インドで策定された女性の社会進出のための21のスキーム
さらにインドの女性の中にはカーストさえも打ち破ろうとする人々もいる。2021年制作の映画『燃え上がる記者たち』(原題:Writing With Fire)は、低カーストの新聞記者の女性が携帯電話ひとつで現場に乗り込み、虐げられている事件を掘り起こし、動画を配信していくドキュメンタリー映画だ。インドは、熱い原動力と政府のイニシアティブで厚い壁を少しずつ打ち破ろうとしている。
日本は変われるのか?なぜ変われないのか?何が阻害要因なのか?どうすれば変われるのか?女性技術士の会としてどう行動すべきか。今一度考えるべきなのかもしれない。
[1] https://www.undp.org/sites/g/files/zskgke326/files/2021-07/UNDP-UPitt-2021-Gender-Equality-in-Public-Administration-EN1.pdf
[2] https://wcd.nic.in/sites/default/files/National%20Policy%20for%20Empowerment%20of%20Women%202001.pdf