【特集】エンジニア ジェンダー紀行 国巡り④

インドネシアの女性の社会的地位

杉山尚美

#インドネシア出身の女性技術者とプロジェクトを共にした経験から、インドネシアの女性について調査内容と自分の所感を紹介します。

 世界経済フォーラムが発表した2022年のジェンダーギャップ指数によると、インドネシアの総合スコアは0.697で、世界156カ国中で第92位となりました。これは2021年よりも9つ上昇した結果です。世界的には下位に位置していますが、保守的な傾向が残っている東アジア/東南アジアの中では中ぐらいの位置にあります。一方、日本は0.650で第116位となり、アジア太平洋諸国の中では最下位、先進国の中でも最下位という結果になっており、世界の中での遅れを感じざるを得ません。

インドネシアのジェンダーギャップ指数を詳しく見てみると、教育と健康の分野では日本が上位ですが、経済と政治の分野ではインドネシアの方が日本よりも高い順位を保っており、女性の就労や政治参画においては、ジェンダーギャップが日本よりも少ないと言えます。特に経済では女性の所得増加の他に、議員・幹部・管理職など上級職に占める女性割合が29.7%から32.4%に増加したことが背景にあります。一方で健康では、自宅での出産や定期的な産婦人科受診をしていない妊婦が26%いるなど、女性の健康促進への課題がみられます。

インドネシアの特徴を3つ挙げると、宗教を重んじること、多様性を重んじること、家族ぐるみの付き合いがあることです。インドネシアではイスラム教徒、ヒンドゥー教徒、仏教徒など様々な宗教が存在し、無神論は認められていません。私が関わったプロジェクトメンバーにはインドネシア人の女性技術者もおり、彼女たちは日本でも業務の合間に礼拝を欠かさず、家族との絆も強く、実際に家族間で婚姻の話が進められることがあるようです。女性の教育・社会的地位の確保は進んでいますが、古くからのしきたりや慣習はなおも根強く残っていると思われます。

教育については統計データによると、就学率は小学校まで男女ともに95%以上でほぼ同等であり、中学校以降では女性の方が男性よりも高い傾向があります。ただし、高等教育においては男性の進学率が34%であるのに対し、女性は29%と低い傾向にあります。数年前にインドネシアの工場を訪れた際に目にした女性たちのほとんどが生産労働者であり、マネージャークラスの女性はわずか1人でした。これは企業の人材育成にも影響を与えますが、生産現場の女性技術者は日本よりもはるかに少ないと思われます。また、教育では男女平等が進んできているものの、賃金格差などの就労面にはまだ課題が残っています。

インドネシアでは女性の産前・産後に1.5ヶ月ずつ、合計3ヶ月の有給休暇が法的に定められており、その間の給料は100%支払われます。一方、日本のような育児休業制度は法的には定められていませんが、一部の企業が独自に制度を設けていますし、男性も地域によっては数日間の休暇を認められているところもあります。しかし、女性の働きやすさの観点では実はインドネシアが日本よりも先進的と言われる面があります。その理由としては、「パートナーの転勤や妊娠、子供の誕生などを理由に退職する」という発想自体がないことが挙げられます。さらに、親が子供の面倒を見てくれるという「家族全体で子育てを支える環境」や、「メイドやベビーシッターを雇うことが一般的である」ということも、女性が早く社会復帰できる要因となっています。

日本では制度面で働きやすさや男女格差の解消が国や地方レベルで進められています。また、女性の社会的地位を確立するために、女性技術者が先頭に立って活躍促進活動も広がっています。私たち女性技術者はさまざまな角度から働きかける必要があると考えます。インドネシアでは他の人々の協力を借りるという点で働きやすさが進んでいる一方で、日本ではまだ古い慣習や考え方が残っており、特に子供に関しては自分がやるべきことを他人に頼むことに引け目を感じてしまう面があります。結局、日本には周囲の目を気にして何かを犠牲にして自力で頑張ろうとする傾向があると思われます。私たちはこのような課題に対して、社会の意識を変えるための積極的な取り組みも必要ではないでしょうか。

最後に、インドネシアで女性たちに大きな影響を与えた人物として、R.A. カルティニ(Raden Ajeng Kartini)を紹介します。彼女は女性の教育や男女共同参画の精神を持ち、最初の女性活動家でした。彼女の誕生日である4月21日はインドネシアの建国記念日でもあり、女性に注目する特別な日となっています。「女性たちに十分な教育を受けさせれば、自立することができる」という考えを説いた彼女の存在は、今もなお多くの人々に影響を与えています。詳細はこちらカルティニ – Wikipedia

 このように、インドネシアと日本ではジェンダーギャップの状況や課題が異なっていますが、両国ともに女性の社会進出や男女平等に向けた取り組みが進んでいます。それぞれの国の文化や制度の違いからくる課題もあります。女性の活躍を支援する取り組みはもちろん重要ですが、社会の意識改革も同様に重要だと改めて感じます。

<参考文献>

インドネシア総合研究所 【コラム】インドネシア女性の社会的地位https://www.indonesiasoken.com/news/social-status-of-indonesian-women/

インドネシア総合研究所 【コラム】インドネシアの産休・育休事情https://www.indonesiasoken.com/news/column-maternity-leave/

インドネシア総合研究所 【コラム】ジェンダーギャップ指数から見るインドネシアの男女格差(2022)

https://www.indonesiasoken.com/news/indonesias-gender-gap-in-terms-of-gender-gap-index-2022/

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