極端な社会環境の変化に対応する ―みんなで取り組む地域の防災ー

香川大学地域強靭化研究センター 磯打千雅子

 2011年に発生した東日本大震災の教訓は、私たちの暮らしの防災の取り組みを大きく転換させた。地区防災計画制度は、東日本大震災の教訓をふまえて2013年災害対策基本法の改正によりはじまったもので、従来の自主防災活動をより一層住民主体とする工夫が埋め込まれている。

 住民参加によるボトムアップ型の仕組みを採用し、災害対策法制の分野で初めて計画提案の仕組みを採用しており、住民や事業者は市町村防災会議に対して地区の特性に応じて地区防災計画を定めることを提案できる。制度の特徴の一つに、活動の継続性が重視される点と、地区の多様性に応じた一般に計画と呼ばれる形式化された文書を求める点がある。

 特に活動の継続性が重視されており、制度施行以降全国で様々な創意工夫による住民主体の活動が展開されている。最近では計画策定地域が被災するケースも出てきた。

◆愛媛県松山市高浜地区の例 

 愛媛県松山市高浜地区は、2018年7月の西日本豪雨災害で大規模な土砂崩れが発生したが、その前に避難がなされ一人も犠牲者が出なかった。

 災害発生前日、自主防災組織が地区内の見回りで土砂崩れを確認したことから、一軒一軒に避難の呼びかけを行うと同時に、市役所へ避難勧告(当時)の発令を要請した。地域の実情に詳しい住民目線と、一斉情報告知手段を有する行政からの発信により、多様なルートで情報伝達が行われたこと、計画策定を通じて行政と住民とのチームワークが平時から構築されていたことにより功を奏した事例である。

 その効果は災害に留まらない。

 新型コロナウイルスの感染拡大は、地域の防災活動にも大きな影響を及ぼした。対面を重視した活動が中心であることから、多くの地域で防災訓練や近隣住民による助け合いの活動を中止せざるを得ない状況に追い込まれた。

◆岡山県津山市城西地区の例

 岡山県津山市城西地区は、このような極端な社会環境の変化にも柔軟に対応し、活動を継続するとともに、さらなる発展を遂げている。

 城西地区は、住民主体のまちづくり組織である「まちづくり協議会」を中心に、地域の強みを活かしたまちづくり活動が盛んな地域である。2020年1月には岡山県内で第1号の住民主体の防災計画である地区防災計画を策定するなど、まちづくりや防災活動で全国から視察が訪れている。

 しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、城西地区では大きな判断の必要に迫られた。年間計画で2020年11月に予定されていた避難所運営訓練は、地区住民全員を対象に毎年積み重ねてきた大切なイベントである。中止にする選択肢がある一方、城西地区では「どのようにすれば実施できるか」を共に考え、工夫を凝らした訓練を実施した。それは「避難所運営でどのようにすれば感染リスクを下げることができるか」を“実践”する訓練である。

 避難者の受付を2段階にする、密にならないように人の動きを一歩通行にする、屋外で距離をとって展示ブースを設置する、開催時間内であれば参加者の都合でいつ来ても良いようにする、などである。この方法により、コロナ禍にありながらも例年を上回る参加者を獲得し、2021年度も継続して訓練が実施された。

 

 災害は自然と共に暮らす私たちには避けられない事象である。私たちがWithコロナの生活様式を獲得したように、With災害の生活様式が求められている。

 災害といった極端な社会環境の変化にも柔軟に対応し、共に助け合う方法を導き出すことは、即ち災害への備えに他ならない。

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