東京都防災・建築まちづくりセンター 永島恵子
平成23年3月11日に東日本大震災が発生しました。
当日は、都議会の閉会日で議会対応直後の出来事でした。私の執務室は都庁舎の20階で都議会控室から自席に戻った直後に、グワーンという揺れを感じました。とっさにヤフーで震源地と地震の大きさを検索しようとマウスを持ったら、椅子のキャスターが動いて机にしがみつかないと持っていかれそうなほどのものすごい横揺れでした。船酔いになりそうになり、窓から外を見たら、超高層ビルが大きく動いて隣のビルとぶつかってしまうかと思うほど、しなっていました。
都職員だった当時の私の仕事は、都営住宅営繕担当部長として都営住宅約26万戸、6000棟を超える建物の維持管理・修繕を行う事でした。ただならぬ状況に徹夜も必至と思い、若手職員に近くのコンビニに行って全員分の飲料と食料の買い出しをして欲しいと頼み、エレベーターが停止していたので階段を使って行ってもらいました。そして「こんなに揺れたら、都営住宅も何か支障があるのではないか」と思い、すぐに管理を委託している東京都住宅供給公社に「今から都営住宅6000棟、全棟安全点検をしてください」と電話しました。震災直後でしたので電話も直ぐに繋がり、公社の担当も「こんなこと初めてだけど大切な事です。やります!」と即答してくれました。公社はその日のうちに工事店(都営や公社住宅の小規模緊急修繕工事を行うために地域・業種ごとに契約している会社)の協力を仰いで団地の割り振りを行い、都内一円にある都営住宅の全棟点検を開始しました。
当日から、都庁の営繕担当職員総勢10名もローテーションを組んで、連絡・調整に徹夜で取り組みました。電車が止まったので歩いて帰れる半数程度の人は徒歩で帰宅してもらい残りのメンバーで徹夜の対応を行いました。翌日、帰宅組の出勤と交代で徹夜組が帰宅しました。
その後、都と公社で一丸となって取り組んだ結果、震災発生の混乱で渋滞やガソリン不足が発生する中、3日間という短期間で建物の点検を終えることが出来ました。高架水槽への配管が外れて断水した住棟やエキスパンションが破損した建物なども一部ありましたが、大規模な不具合はありませんでした。
都営住宅の無事を確認したタイミングで、トップから方針として「震災で住宅を失った方や東京へ住むことを希望する被災者の方を都営住宅等に受け入れる」ことが決まりました。私たち営繕担当チームに与えられたミッションは、主に次の3点でした。
①選定住戸の点検・修理:26万戸の都営住宅の中で、建て替えの移転先用としてリザーブしている空き家住戸から選び出された1000戸の住宅の内部を、点検して不具合がある場合は修繕する
②家財の据え付け:着の身着のまま都内に避難して来た人が入居当日から暮らせるように、布団や照明器具、コンロ、冷蔵庫、テレビを、点検・修繕した住戸に据え付ける
➂上記のミッションを2週間以内に完了させる
すべてが手探りでした。
特にこれまで未経験で思い切って取った行動の一つとして、役所は入札が大原則ですが、2週間で据え付けまでを完了するにはとても間に合いません。緊急の措置として、部下と二人で分担して片っ端から電話を掛けました。家電量販店に「テレビ1000台を10日間で据え付けて欲しい、いくらか?」と飛び込みで電話して、一番条件の良い所から買い付けを行いました。また布団は、ちょうど我が家が通販で買ったところだったのを思い出して電話をすると、「1000組を10日間では無理だけど、数百組なら準備できる。被災者への方への協力をしたいから、無償で提供させてほしい。」と心温まる申し出をしてくれました。
私の担当チームとは別に、住戸の募集と入居の割り振りを行ったチームも膨大な作業を行いました。3月中旬に都営住宅と公社住宅への受け入れ方針をプレスしたところ、想定をはるかに超える電話での問い合わせがあり、あっという間に複数用意した回線がパンクしてしまいました。急遽抽選を行うこととして、書類も簡素で記入しやすいものを考え、抽選会も自分たちでプラカード等を準備し都庁舎のロビーで行いました。また、入居の割振りではこれまでの経験から、被災された方のコミュニティの重要性を考えて同じ地域から避難された方が同じ団地に入居出来るように配慮し、病院・学校・親戚の近くという希望がある方にはなるべく沿うことが出来るようにときめ細かな対応を行いました。更に、被災者の方が入居する団地の自治会や区役所などに事前にお知らせをして、連携して入居後地域に早く溶け込めるように取り組みました。
震災から20日後の4月1日に抽選会を行い、第一回目の都営住宅・公社住宅への入居が開始、その後国家公務員宿舎や民間賃貸住宅等の借り上げも行い順次入居戸数を拡大し、ピーク時には2000世帯5000人以上の方が、東京都が提供する応急仮設住宅へ入居されました。
「都営住宅等に被災者の方を受け入れる」というミッションはトップの決断でしたが、それから先は都営住宅事業担当の各チームが一丸となって未経験の課題を一つずつ迅速にかつ着実にこなした結果、実現できた事であり、これは都庁職員の底力の結集です。自ら考えて協力して行動するという、こんなにも力のある組織だったのだということを改めて知ることができました。この時に行動を共にした仲間は、未だに運命共同体のように感じられます。
今回、女性技術士の会から「災害の経験から見えてきたこと」というテーマを頂きました。これから先、どの様な災害に日本が見舞われるか分かりませんが、過去の経験を活かし乗り越えて行くことが出来る「底力」を持っている、それが日本人のDNAだと思います。私も12年前の出来事を改めて思い出し、「困難があっても皆で協力して立ち向かっていけば良いのだ!」という勇気が湧いてきました。
震災特集で体験をお伝えする貴重な機会を頂き感謝申し上げます。
これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます。