建設部門 市岡恵利子
関東大震災から100年目となる今年、防災に関する特集号を発行するにあたり寄稿の機会を与えていただきまして感謝申し上げます。
長年、長野県の土木公共技術者としてインフラ整備に携わってきた中で、自然災害への対応は大きな課題の一つです。ここでは、自然災害により被災したインフラの復旧と、防災のための行政からの情報の活用の二つの項目についてお話しさせていただきます。
1.自然災害により被災した公共インフラの復旧にむけて
自然災害により公共インフラ施設は大きなダメージを受けます。インフラの多くは、社会経済活動、そして我々の日常生活と密接にかかわっており、早急な復旧が必要なものばかりです。被災したインフラ施設を管理している自治体はその復旧に全力を尽くします。
「公共土木施設災害復旧事業費負担法」という法律があります。天然現象により損傷したインフラ施設は、その天然現象が所謂“災害”を引き起こすレベルのものである場合、国の予算により施設を復旧することができます。豪雨災害を例にとると、時間雨量20mm以上または、24時間雨量80mm以上であれば負担法の対象となります。(最近ではこのくらいの雨はしょっちゅう降っていますが、基準は変わっていません)
大雨注意報、さらには大雨警報が発令され、災害に備え、発災前から自治体職員は昼夜を問わずの勤務体制に入り、関係機関と情報を共有し緊急事態に備えます。そしていざ災害が発生した場合は、そのまま災害の状況調査に出かけていきます。もちろん職員の安全を確保したうえでですが。
甚大な災害の場合は、多くの道路が寸断され公用車での移動ができなくなり、徒歩で調査を進めなければならない場合もあります。また、砂防や河川の災害調査は道なき道を進みながら行われることになります。
災害が大規模な場合は、事務所単位で被災箇所が100か所以上になる場合もあり、調査に数日かかります。そして、被災後10日以内で概算の被災額(復旧にかかる概算費用)を国に報告しなければなりません。
公共インフラの復旧工事は、災害申請をし、災害査定により認められた工事が復旧工事となりますが、すぐに対応をしなければ更に被害が増大するもの、また、社会活動に大きな影響を及ぼすものについては、申請前に応急工事を行うことができます。道路が寸断された箇所では仮道や仮橋を架けたり、河川の決壊箇所に増破(ぞうは)を防ぐための仮設護岸を設置したりします。
応急工事と並行して、復旧工法の検討に入ります。現場を測量し被災の実態を把握し、復旧工法を検討します。災害復旧工事は原形復旧が基本で、元の機能以上の整備をすることはできません。しかしながら、昨今のあまりに頻繁な災害の発生を踏まえ、再度災害の防止といった観点も考慮し復旧工法を検討する方向になってきています。
災害がかなりな広範囲に及ぶ場合は、測量・設計を委託する業者が確保できず苦労することも多々あるなかで、被災現況測量をし、その図面を基に復旧工法を検討し設計図を作成します。設計ができたらそれをもとに復旧工事費を計算(積算)します。工事の規模は、数百万円から数千万円、億万円単位のものもあります。
災害査定は被災から一般的に2か月以内に実施され、その2週間前までに国庫負担申請書(目論見書、異常気象資料、設計書、図面等)を国に提出しなければなりません。つまり発災から1か月半程度でこれらの作業を行わなければならず、大きな災害では、担当者1人で十数か所を扱いますので、本当に徹夜続きの作業となります。
そして、災害復旧のメインイベント災害査定を迎えます。これは、災害現場において主務省である国土交通省の査定官と財務省の立会官が立ち会う中で、申請した復旧工法の妥当性を検証し査定するものです。立会官は財務を預かる立場から、「無駄な」復旧工事を削ろうとします。現場でもめることもあります。時には夜までかかることもあり、現場では懐中電灯の明かりを頼りに関係者で協議を行う事態になることも。特に台風シーズンの災害は、2か月後というとちょうど12月末くらいで、長野県のような寒冷地では降雪もあり、厳しい環境での災害査定となります。
この災害査定により復旧工事費額が確定します。復旧工事は基本的に発生した年度を含め3年度以内に完了させなければなりません。当然早期の復旧が望ましいため、当該年度にできるだけ発注するよう努めます。災害査定後息つく間もなく、職員は復旧工事発注の準備に入ります。発注のための設計書類が整い、無事入札が行われ、ようやく復旧工事の着手となります。
先にもお話ししたように、災害復旧は基本的に原形復旧ですが、これとは別に、再度災害を防止し、より十分な効果を上げるために、災害復旧費に加え別途事業費を投入し行う改良復旧事業があります。こちらはより事業規模が大きく数年にわたり工事が実施されます。
自治体職員は、国土強靭化を目指し災害に強い国土を造るため日頃より防災施設の整備に努め、いざ災害発生時には、このように寝食を忘れインフラの復旧に打ち込んでおります。
また、災害に対して社会インフラを管理していく上で、住民の方々からの情報はとても有益なものとなります。先にも述べたように、自治体職員は被災状況調査を行いますが、安全確保のためと、被災状況を確実に確認するために、河川等ではある程度水位が下がってから実施します。その際、洪水痕跡といって、護岸ブロックの泥の付着状況や、天然河岸では草のなぎ倒され方等により、どこまで水位が上がったのかを推定します。もし、近隣の住民の方が出水状況等を記録(今は簡単にスマホで動画が撮れますので)しておいていただくと実データとして洪水の状況が把握できるため、公共土木施設災害復旧事業費負担法に基づく災害申請の根拠になります(雨量だけでなく出水位も負担法の対象の条件になるため)。
さらにそのデータをもとに、どの程度の降雨がどれだけの出水につながるか分析できるため、その後の河川改修計画の基礎データとしても利用できるものとなります。
その他にも実際に施設の被災状況等をご連絡いただけると、復旧に向けた迅速な対応につながりますので助かります。
情報をお持ちの場合は、お近くの市町村等にご一報をいただければと思います。
2.災害に備えるための行政からの「情報」の活用について
災害が激甚化する中で、国土強靭化に向けた防災事業が実施されていますが、それを上回る勢いで異常気象が発生しています。そのような中で、自らの命を守るため私たちは災害への備えが必要です。その一つとして、行政から様々な情報が発信されていますので是非ご活用いただければと思います。(民間情報の方がGoodというご意見もあるようですが)
まず、実際に災害が発生する前の事前情報としては、
・ハザードマップ・・・・洪水(外水、内水)、土砂災害の危険度がわかります。
・避難所マップ・・・・ 避難所の位置が確認できます。
また、実際の異常気象時の情報としては
・気象に関する情報・・・・・大雨注意報、大雨警報、土砂災害警戒情報、浸水キキクル
・河川水位情報・・・・・川の防災情報、洪水キキクル
・土砂災害情報・・・・・土砂キキクル
・避難情報・・・・・・・避難指示
等があります。
これらの情報をどのように活用したらよいか?まずは、災害が起こる前に、ご自身のお住いの地区のハザードマップをご覧になって、ご自身のお住いの地区の危険度を認識しておくことと、避難所の位置とそこまでのルートを確認しておくことが最低限必要です。これは簡単そうでなかなかできないというか、皆さんおやりにならないんですよね。
また、実際に異常気象が発生した場合は、それぞれの情報が、避難に関する行動とどのようなレベルで結びついているのかということを承知しておいていただくことが重要です。下の図では、気象情報、土砂災害情報、洪水情報などの情報がどのレベルに達したら、どのような避難に関する行動をとるべきかがお分かりいただけます。参考にしていただければと思います。
私たちの生活は、ここで取り上げた豪雨のほかに、暴風(台風)、竜巻、地震、津波、火山噴火、山林火災、豪雪、様々な自然災害の脅威にさらされています。日頃から個人が防災意識を持つこと、そして社会全体で知恵を絞って対応していくことが大切だと思います。