自主防災の取り組み

上下水道部門 笹尾圭哉子

1.自主防災会に入ったきっかけ

 私の暮らしている町会に自主防災会ができたのは2016年のことでした。2018年に当時の自主防災会団長から、自主防災会の救護グループのサブリーダーになってほしいと頼まれ、リーダーがご近所の親しい方と聞いていたので引き受けました。引き受けたのちに「リーダーに…」と依頼され、話が違うと思いながら引き受けて今日に至っています。当時の団長とは2015年に町会の役員会でご一緒しており、あれこれと意見を述べたことで目を付けられたのかな、と思っています。自主防災会に入ってから、今年(2023年)で5年目となります。

2.自主防災会の組織と役割

 幹事会と災害対策本部、その下にサポート(総務)、避難・情報、機動、救護、給食の5つのグループがあり、それぞれ平常時と災害発生時の役割があります。このほか、町会の全6区の各区に1件ずつトランシーバー担当を置いています(図1参照)。

                 図1 自主防災会運営組織

3.自主防災会が対象とする災害

 当初は震災のみを対象としていましたが、近年、大雨による水害が頻発していることから、水害も対象とすることになりました。私の住んでいる千葉県市原市は、2019年の台風19号の際、竜巻や土砂崩れにより被災しました。当町会でも激しい降雨によって一部の道路が川のようになり、2日間近い停電でマンホールポンプが停止、低地盤地区で下水が溢水する事態になりました。自主防災会はこの時点で水害を対象としていませんでしたが、有志により屋根が飛んでしまったお宅の避難の援助や町会内の見回り、市担当部局とのやり取り、町会センターの解放などを行いました。このときの経験もあり、翌年から水害も自主防災会の対象となりました。

4.自主防災会の取り組み

 自主防災会では、例年、以下の活動を行ってきました。

・幹事会打合せ
・リーダー研修会(自主防災会リーダー・サブリーダー対象)
・防災訓練(全町会員対象)
・千葉県災害コーディネーター養成講座への派遣
・市の危機管理担当部局との折衝
・グループごとの活動
・救命講習会(救護グループ担当)
・他の町会との連携(団長・民生委員対応)
・トランシーバー訓練

 これらのうち、いくつかの活動について紹介します。

(1)幹事会打合せ

 主に自主防災会の組織運営や活動内容、年間スケジュール等について協議・決定します。幹事会で作成した災害時の行動マニュアル(図2)は年々更新され、現在では他の町会の自主防災会でも参考にされています。「自助・共助・公助」の順に重要であり、まずは自分の身の安全確保を行い、その上で共助(「ご近所」とも呼ばれます)の活動をしましょう、と呼びかけています。なお、市原市の端に位置する当町会では、公助は当てにできないものと考えています。

                    図2 行動マニュアル

(2)防災訓練(全町会員対象)

 防災訓練は、震災が発生したことを想定した「訓練の部」と、ご家族などで楽しみながら体験できる「防災祭りの部」で構成しています。

 毎回、市で実施する訓練にあわせて行い、町会の班ごとに班員の安全を確認することから始まります。午前9時のサイレンを聞いた後に「無事です」と書かれた黄色のタオル(通称、無事ですタオル)を門などにかけ、その後、班ごとに集まり点呼をします。この際に班長が班内の要介護者や援助者の確認をあわせて行い、想定した被災状況とあわせて災害対策本部まで報告に向かいます。災害対策本部では、班長からの報告を受け、けが人や火災、倒木などの状況をボードに書き込んでいきます。

 このほか、自主防災会が実施する救出訓練では、消防の経験者がリーダーとなり、人形を使って倒木から救助する訓練(写真2)を行うほか、炊き出し訓練ではコーヒーや豚汁を町会員に提供します。豚汁は町会員作成のレシピによる本格的なもので、大きな窯を2つ使って大量に作ります(写真3)。美味しくて毎回楽しみです。高齢などの理由で会場に集まることのできない町会員へは、民生員が容器を持って配布します。みなさん、これを楽しみにしているそうです。消防隊員の方にも毎回喜んで味わっていただいています。

 消防署の協力による防災体験では、起震車(写真4)や煙幕の中の避難訓練や消火器を使った的宛ゲームなど、お子さんも楽しみながら参加できます。このほか、出張交番による相談会や、耐震ブレーカーのメーカーによる展示も行います。千葉県災害対策コーディネーター((3)参照)の講習会を主催するNPO法人による応急手当等の講習会をしたこともありました(写真5)。

(3)千葉県災害対策コーディネーター養成講座への派遣

 千葉県災害対策コーディネーターの役割は、「平常時においては、地域防災力向上のための取組を行い、大規模災害時に地域と密着した自主防災組織、ボランティア、NPO等の協力を得て、各組織をとりまとめるとともに他の組織や行政関係機関との連絡調整役を担う」とのことです。平常時は連絡会の主催による情報交流会や養成講座の支援が行われます。養成講座は、千葉県から委託を受けたNPO法人が主催し、修了すると修了証書を受けます。

 自主防災会では、養成講座へ団員の派遣をしており、私も2019年の6月から7月にかけての土日の4日間、講座を受けました。9時から16時30分(最終日は9時半から15時半)の講習で、私を含めて3名で参加しました。講習内容は、概ね表1に示すとおりです。

 講演で印象深かったのは3日目の「東日本大震災と近年の災害から学ぶ」で、震災の映像が流れると、改めて大変な災害であったことを思い出し、震える思いでした。体験はいずれも興味深く、1日目のまち歩きでは、講習会会場の近辺を歩きながら防災関連の標識や防火水槽、防災無線、備蓄倉庫などを確認し、それらの数が多いこと、普段気づかなかったことに驚きました。

 2日目の障がい者体験では、目隠しをして介助者のリードで階段の上り下りを含めた施設内の移動や、手話や筆談によるやり取り、車椅子体験をしました。どのようなサポートが必要なのか、体験して学ぶことで少し理解ができたと感じました。手話ははじめての経験でしたが、筆談を交えて意思疎通ができたときはとても嬉しかったことを覚えています。車いす体験では、足を載せるステップの適切な出し方や階段の昇降において安全で安心できる足と頭の向きなど、体験して初めてわかることでした。

 3日目の避難所運営体験ゲームは最も印象深く、真剣に考えながら行いました。避難所を開設した際、高齢者にはどの区画に避難してもらうか、親子連れの場合は、ペットは?そして、遺体は?といった待ったなしの状況・課題が提示され、紙面上に描かれた避難所と課題などが書かれたカードを用いて設定していきます。何人かでグループになって話し合い、リーダーが指示をします。実際に起こり得ることではありますが、果たして何が正解なのか、今もわかりません。

 3日間の講習で災害対策コーディネーターとしての講座は修了です。4日目は3日間の講座を主催したNPO法人による実技認定講座で、身の回りの物を用いた自助の訓練をしました。ロープワークや新聞紙を使ったスリッパや食器の使い方の習得、オイルランプの作り方のほか、三角テントの作り方も学びました。

 4日間はあっという間に終わりました。毎回昼食として非常食を食べる体験があり、1日目が個食α米、2日目が炊飯袋による白米+レトルトカレー、3日目は炊飯袋による白米+豚汁、とグレードアップしていき、NPO法人とカレー作り体験希望者が作ったカレーで、とても美味しかったことを覚えています。ご褒美があるとより頑張れますね。

(4)救命講習会(救護グループ担当)

 自主防災会では、消防署の協力を得て救命講習会を開催しています。私の担当している救護グループが計画し、消防署との折衝や当日の準備などをします。第1回目は2018年に「だれでもできる応急手当」のコースで約40名が参加し、止血法や搬送法などについて1時間半ほど学びました。2019年には「普通救命講習1」のコースで約30名が参加し、救急車の適正利用や応急手当について3時間の講習を受け、3年間有効の修了証をいただきました。

 2020年~2022年はコロナ禍であることを考慮し、町会全体の救命講習会は実施せず、救護グループ内で自主的に三角巾や担架の使い方を勉強しました。

 本年は新型コロナウィルス感染症が5類感染症に位置づけられたことから、4年ぶりに町会全体の救命講習会を実施しました。7月1日に約30名が受講し、7月22日に約10名が受講予定です。今回は、胸骨圧迫やAEDの使い方を中心に、状況確認など細かい手順を学びました。途中で講師から「応急手当とはどのようなものですか?」などの質問があり、指名された人はみなさん確実な回答をしていて、これまで実施した成果がでているように感じました。参加者はみなさん真剣そのもので、最後に試験を受け、無事全員が合格しました。講師の行動をよく見て手順を覚える必要があり、練習ではできたのに試験では混乱する人や、その場で追試を受けた人もいました。何事も実際に体験しないと身に付かないものです。

(5)トランシーバー訓練

 東日本大震災の際に、携帯電話がつながりづらいということがありました。トランシーバー(無線機)は充電さえしておけばいつでも使えます。自主防災会では、町会の各区に1台と、災害対策本部に1台、各グループの持ち出し用に数台を備えていて、月に1度の使い方訓練をしています。慣れてしまえば簡単に使えますが、はじめは戸惑うことがあります。携帯電話のように耳に当ててしまったり、早口すぎて聞き取れなかったり、「こちら○○です。~どうぞ」という会話の手順が守れなかったりします。電源を入れると全台に同じ会話が聞こえますが、やり取りできるのは1対1ということも特徴的です。何事も経験あるのみ、ということがわかります。

5.今後の活動

 現住所に引っ越してきてから、今年で27年が経ちます。はじめはごく近くの方とのお付き合いのみでしたが、町会の役員(順番制)になったことで、お付き合いの範囲が広がりました。様々な場面で励まされ、親切にしていただいています。これまで忙しくてこちらからできることがなかったのですが、ようやく少しお役に立てるようになったかな、と感じています。今後も「もういいですよ」と言われるまで、自主防災会での活動に参加していきたいと考えています。

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